読・三段峡
眼下をゆったりと流れる太田川はきらきらと輝き、遠くに見える山々の尾根が青空にくっきりと浮かんでいる。
春を思わせる陽気の可部駅を出発して1時間が過ぎていた。満員だった車内は空席が目立ちはじめ、隣のボックスも、今は上品なおばあさんと旅行者らしき男性の二人だけになっている。
「まぁ、そんな遠くから?」
「ええ。もうすぐ廃線になると聞いたので」
車窓の風景はいつのまにか冬景色に変わっていた。目の前に迫る山肌には白い雪が凍りつき、枯れ草が風にあおられ、ざわざわと揺れている。
「昔に比べたら可部線に乗る人は少のうなりました。でも、可部線が無くなったら、わたしらは本当に困ります」
開いた扉から冷たい空気が忍び込み、
おばあさんは深々と頭をさげて降りていった。可部線は最後の長い坂をゆっくりとしたスピードで上っていく。トンネルを抜けると、雪におおわれた終着駅が見えてきた。

絵図・ひのただし 文・ひのしのぶ
読売ライフ広島版2000年3月号掲載 (c) 2000, edit CUE
情報は2000年当時のもの
かお後日談