読・福山

ここは室町。中世、草戸千軒の町。歴史博物館の展示室の中は初夏の夕暮れの日差しに包まれている。
木橋のかかる樹脂製の川。その川岸にはアシやススキがはえている。軒下にはスミレにハコベ。 草花の種類にも気を配ってあることに驚く。木戸をくぐると、そこには生活がある。かまどの火は赤く燃え、夕食の支度も整っている。 あまりのリアルさに、今にもこの家の主がひょいと顔を出すのではないかと思えるほどなのだ。
夢の中にいたような奇妙なフワフワ感のまま、福山城に向かって歩いた。
高い石垣を巡り、石段を上ると、京都の伏見城から移建された伏見やぐらと筋鉄御門が見える。 数十本の鉄がうちつけられた立派な門と桃山の気風を残すやぐらは、築城以来、その姿を変えることなくここにある。 ここだけが時代に飲み込まれることなく生き続けているのだ。
長い年月は町の姿を変えてゆく。ここにあるこの町もいつかは歴史になるのだろう。

絵図・ひのただし 文・ひのしのぶ
読売ライフ広島版2000年9月号掲載 (c) 2000, edit CUE
情報は2000年当時のもの